うつわ
綺麗な人だった。可憐で儚くて、蜃気楼のように、いなくなってほしくなかった。
クリトリスをたっぷり舐めた京極堂はびらびらとした、濡れたそこをなめ回す。
苦しいかい、と言って尿道の先端、鈴口を舌でつつくと、じっくりしつこく味わうように嘗める。まるで、鋭い目をした猫のようだ。
尿道が一番感じると妖しく教えてもらった事を思いだし、自らの着物の合間に手を差し込んで、下半身をわしづかみにすると、まさぐって、数度イッてしまうと(僕は、感度がいい)、ふふんと得意気に笑い、またしごき始め抜き始めながら、恥ずかしそうに嬉しそうに彼を見上げる彼女に、蠱惑的な低い声で、ここが一番感じるのでしょう、と言いながら、女性器をなめ回し、あとは奥秘所の入り口をくるりくるりと舌先で、描くようになめ回す。
古本屋の、開け放たれた硝子戸の外はかん、と晴れて、真夏の熱風がここまで、届く。
ぶううんと古い扇風機が廻り、通りには、人はおらず、たまに自転車がちりりんと、音を鳴らして走っていく。
りん、りん、と風鈴が熱にあおられて時折、鳴る。
美枝子の濡れそぼった女性器を見ると、祭りで売られている妙に艶やかな怖い面と、合わせ貝の赤貝を思い出す。耳にいつまでも人魚の唄声が、甲高い、か細い絹糸のように響いている。
耳鳴りがする。
こんなことばかりをしていても、いけない。でもやめられないのは、中禅寺も一緒で。この女(ひと)が、好きで、脆くて繊細なのに、悲しい恋に縛られている‥‥‥この人も、やめられないんだな‥‥‥‥苦しみ、悲しむ中禅寺。
暗い座敷の上、日差しは明るく影は一層濃く。
静かに暗く悲しくなる────
「私も、同じ‥‥‥悲しいんです」
彼女は泣きながら、前戲を終え、濡れた間に入ってきた京極堂を受け入れる。
ぬうぬう、と、男根が淫らに動きだす。
彼女は泣きながら、かすれた悲鳴をあげはじめる。
動きが早くなる。
はあはあ、とどちらとも云えない獣じみたあえぎ声が、肉体とともに重なりあい混じり会う。
満足だ、最高だ、京極堂は汗だくになりながら、はだけた合わせをそのままに激しくピストン運動を女性のなかで繰り返す。
美枝子は京極堂の背中にたよりなくすがっている。
乱暴な京極堂の愛は、脳に悪い乱暴なセックスだった。
美枝子は、乱暴に突き上げられ、眉根を困らせて、
たまらない、と動きを激しくする。美枝子は揺れなから濡れまくっている。
容赦ない突き上げられで、息も苦しそうだ、
京極堂は愉悦の中だ、
ふふふ、と心のなかで、どす黒いものが、彼女を突き上げる。
初めてあったときから、彼女は、美しく、犯したかった。
いっそう突き上げは激しくなる。
こういうのが、いいじゃないか、他の追随を許さないやつが────‥‥‥。
まぐわいは終わり、小さな死が訪れ、折り重なるように、倒れている。やめられなかった─────
座敷の闇のなかに、二人はいる。
やがて、京極堂は身体を起こし、美枝子の顔を見ると、艶めいていて、唇も眼も潤んで、切なそうに京極堂を見上げていた。もっとちょうだいといわんばかりだ。
「‥‥‥美枝子さん、また来ますか───」
「中禅寺さん、ええ、明日も‥‥‥」
「‥‥‥綺麗だ、貴女」
そう云うと、京極堂は流麗に笑い、美枝子の頬に手を添えて、
「‥‥‥ええ、では待っています」
と言って、またゆるりと腰を使い始める。
「‥‥あ!」
もっと、もっと貴女の矯声が聞きたい。
僕は、狂っている。いや──────
通に、ゆらりと陽炎が、立ち上げる。通りの灼熱の炎天下に、どこかで巡業の禅僧の錫の音色と、南無阿弥陀仏と唱える声が聞こえる──────